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ヤマタノオロチの卵を食べて思うこと [気ままにessay]

 先日、ヤマタノオロチの卵を食べました。 Σ( ̄□ ̄;
 
 子どもの頃親に連れて行ってもらって観た映画の中で、とても印象深かったものの一つに、『古事記』におけるスサノオのヤマタノオロチ退治を題材にした、『わんぱく王子の大蛇退治(わんぱくおうじのおろちたいじ)』というアニメ作品がありました。(年齢がバレバレ?)
 幼かった私はよっぽどこの映画に魅入られてしまったらしく、何度となく物語の世界の夢を見たものです。
 ヤマタノオロチに追いかけられる怖い夢、ではありません。
 主人公の「わんぱく王子」スサノオよろしく、翼をもつ天馬の天早駒(アメノハヤコマ)を駆って、八方より襲いかかるヤマタノオロチからの攻撃を防ぎながら、天地を縦横無尽に飛びまわって闘って倒す、という内容。
 (女の子なんですからねぇ、クシナダヒメのつもりで夢見ればいいのかもしれませんが、私の場合はやっぱりスサノオでしたw)
 
 今回は、この映画についてや、夢に現れる潜在意識についての話ではなく(それはそれで面白そうなのですが)、ヤマタノオロチについての話です。
 ・・・って言うか、むしろ「チ」?? 

 先に述べた映画のタイトルで、少々気になる部分があります。
 それは、「オロチ」を「大蛇」と記しているところ。
 細かいことを言うようですが、一般的に「大蛇」と書くと「ダイジャ・おおへび」と読み、「きわめて大きなヘビ」の意味になります。
 とは言え、「オロチ」は「大蛇、うわばみ」と同義でもあるということなので、誤りではないのですが・・・
 それでも、ヤマタノオロチはあくまでもオロチであって、ヘビではないように思えるのですよ。
 なぜ「オロチ」と「大蛇」とを分けたいかと言いますと、それは「オロチ」には「チ」がついているから。

 ヤマタノオロチを漢字で表すと、「八俣遠呂智」。
 オロチが「遠呂智」部分ですね。 
 (ちなみに、これは『古事記』において。 『日本書紀』では、「大蛇」があてられています。 『古事記』では、固有名詞などは表音の漢字で記されていることが多々あります。)
 この「智」について。
 「智(または知)」と記して「チ」と読む場合、ある意味づけが為されていると言えます。
 この漢字は、もともとの「大きな声で言葉をつらねて神に告げる」意から発展した、「物事のことわりを知る能力」との意味をもち、上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい=万葉仮名)でこれを用いた固有名詞の対象は、精霊的、人智を超えた、あるいは神霊的、神格化されたようなものであることが多いのです。
 「チ」という音自体が、古代の日本ではそのようなものごとを表していたらしく、「ミズチ」「イカヅチ」などの「チ」も同様の意味をもつようです。

 「ミズチ(=ミヅチ)」は、「ミ」は水または巳のミで、「ヅ(=ツ)」は「~の」という格助詞(沖つ島、外つ国など)のツ、「チ」は霊物の意のチ、つまりヘビの姿をした水棲の精霊(妖怪・水魔とも)で、「蛟」とも表される龍に似た想像上の生き物。
 万葉集には、中国語の「蛟龍」の文字で記され、「みつち」と読む詞を含む歌があります。

 雷のことである「イカヅチ」については、ちょっと調べ切れていないのですが、「イカ」は「厳(いか)し」という「いかめしい、恐ろしい、荒々しい」意味のイカで、「ヅ(=ツ)」と「チ」は上に述べたのと同様の遣われ方なのではないかと思っています。
 奈良薬師寺にある仏足石碑歌には「伊加豆知」との表記があります。(表音で記される上代特殊仮名遣では、「豆」は「ツ・ヅ」の音にあてられます。)
 古代の人々が、雷光や雷鳴を目の当たりにして、どのように感じたのかは想像するに難くないですよね。

 と、こうして考えてみると、「オロチ」の「チ」はもう解ってる、ならば「オロ」は何? ってなことになって・・・。
 まずはオロチの「オ」から。
 これは漢字の「遠」で記されていますね。
 当時の表音の例からすれば、これは本来は「ヲ」であると言えます。(ほら、表音に遣われる漢字には、キマリがありますから。しつこくなるから、詳細は省きますけど。)
 そこで、今回の話に関係ありそうな意味をもつ、「ヲ」と発音する詞なんてあるわけないよね、と古語辞典を開いたところ・・・ なんと、あったのでした。
 「を」一文字の名詞で、山の高い所、峰、丘の意味。 うーん、驚いた~。。。 コレかな?
 
 次の「ロ」で決定打となるかもと思い、いろいろ調べてみましたが、結局ははっきりと分かりませんでした;
 いろいろな説はあるようですが、一番「そうなのかなぁ」と思えるのは、接尾語としての「ロ」。
 「ところ(=処)」などの最後に付いている「ろ」と同じような遣い方なのでしょうか。
 (余談ですが、「処(こ)」は一文字で場所・ところの意味をもちます。「其処(そこ)」「此処(ここ)」のように遣われています。「ところ」の「と」が何を意味するかよく分からないのですが、末尾の「ろ」が接尾語であることは確かのようです。)
 実際万葉集の中にも、「ろ」を接尾語としてくっつけて、峰や丘の意味で「乎呂」と記し「ヲロ」と読む詞が含まれた歌があります。(巻14・3501)
 でも、如何せん用例が少なくて、「きっとこの説が正解だ」とピーンと感じるものが弱いのですよねぇ;

 ただ、意味の面からすると、イメージ的に「ミヅチ」の水に対比させて、やはり地や山に関係しているようにも思えます。
 そのことは、いわゆるスサノオのヤマタノオロチ退治伝説で、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を得たことが、すなわちヤマト政権が、緊張関係にあった一大勢力である出雲のもつ、製鉄技術を統べるに至ったことを示唆している、とする解釈に通じているようにも。
 つまり、製鉄に必要な鉄鋼を産出する鉱山と関連して、「オロ」は峰や山を指すのかな? と。
 ヤマタノオロチ退治については、氾濫する河川の治水を意味しているという説もありますね。
 これは、製鉄に際しては大量の木炭を使用するので、上流の木々を伐採し尽くしたために洪水が起こるようになったのだという解釈もあり、その製鉄との関連付けられ方に、私などは「なるほど~!」といたく納得させられました。

 それから(ここから先は、私のイメージのみの話になりますが)、あてられた漢字についても気になります。
 上代特殊仮名遣ですから、単に音をとったのだとも考えられますが、「ヲ」も「ロ」も「チ」も、表音についての諸々のキマリの中においても、他の漢字で表すことができます。
 けれども、「遠呂智」と記された。
 「遠」には、遠い、そして長い、奥深いなどの意味がありますね。
 「呂」には、連なる、つながる、長いという意味があります。
 それと例の「智」でしょ?
 この3文字からの連想は。。。。
 山にしろ川にしろ、人智の及ばぬような畏怖を感じさせる、深く雄大で時に猛々しい、そのような自然の化身の姿が浮かんできませんか?
 特に「智」ネ! 「智」がついてるから、「大蛇」で記されると「なーんか違うんじゃないのぉ~?(-_-;) 」と思ってしまいます。

 いずれにしても、日本神話の中でも圧倒的な怪物度を誇るヤマタノオロチ。
 かのキングギドラのモデルなんですから。
 その存在感に敬意を表し、「大蛇」ではなく「遠呂智」、せめて(迫力が落ちるけど)平仮名かカタカナで、固有名詞として記憶しておきたいと思うのでした。
 
 あ、忘れるところでした!
 私がペロリと食べたのは・・・ヤマタノオロチの卵ではなく、正しくは 「ヤマタノオロチ チョコたまご」 でした[わーい(嬉しい顔)]
 ほどよい甘味の黄身餡の周りを柔らかすぎないスポンジ生地でくるみ、外側(殻?)はホワイトチョコでコーティング。
 出雲のおみやげで頂戴して、いろいろいろいろ、あんなことこんなことの想像回想妄想を巡らせながら、美味しく楽しくいただきました。

 では、また[手(チョキ)]
 
 
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パキちゃん

☆納豆(710)な奇人さん  ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-10-22 07:23) 

eritaro

わ〜い! ご無沙汰してます!
パキちゃんの記事が久しぶりに読めて嬉しいです♪
チョコ卵食べながら古語辞典をめくるあたりが、さすがですね。
確かに「大蛇」ではビジュアルはイメージはしやすいけど、正体を推測する余地がないですもんね。
娘に「ギリシャ神話」の本を買おうかと思っていたのですが、まずは「古事記」を買った方がいいかも知れませんね(って自分が読みたくなっただけ?)

素敵な誕生日プレゼントのお話に感動しました。
by eritaro (2008-10-22 08:48) 

ki_no_ko

パキちゃんさんの記事アップ、楽しみにして居りました♪
自分のPCで、「おろち」を漢字変換すると、候補の中に「大蛇」という字が出てくる事が初めてわかりました^^;
(ちょっとトライしてみました^^)
なるほど〜^^と興味深く読ませていただきました。



by ki_no_ko (2008-10-22 12:57) 

風子

しばらくでした^^
お元気そうで なによりです。(*^^)v
なかなか難しそう。。。
「ヤマタノオロチ チョコたまご」・・・
東北にも「かもめの玉子」という似たようなお菓子があるのです。^^
お茶しながら、ここまで考えが及ぶ、、、う~~ん流石です。^^
by 風子 (2008-10-22 14:57) 

パキちゃん

☆eritaro さん  ご訪問ありがとうございます^^
ご無沙汰しております。
久しぶりの記事アップなので、ライト感覚でとりかかったのですが、
興味が次々拡がって、予定よりも重めになってしましました^^
日本神話もギリシャ神話も、意外な共通点があったりして、面白いですよね。
今年の誕生日のサプライズは、きっとずっと忘れないと思います。
すっごくウレシイ! でも行けないじゃん!! みたいなw
by パキちゃん (2008-10-22 19:07) 

タックン

こんばんは。
お久しぶりです^^
点から無限に広がっていくようなパキちゃん節
想像回想妄想・・・一緒に楽しませていただきました^^
『古事記』も『日本書紀』も こんな風に読み解くことができれば
もっと身近に感じることができるのでしょうが・・やっぱり難しい^^
バロンちゃんも 元気ですか?

by タックン (2008-10-22 20:35) 

パキちゃん

☆ki_no_ko さん  ご訪問ありがとうございます^^
ほんとに不定期でボチボチになってしまってて・・・お久しぶりです!
私もさっそくPCでオロチを変換してみました。
「蠎・蟒」もありましたね。 でも やっぱり「遠呂智」がピッタリかな。
当て字で、「悪呂血」とか「雄狼魑」とか(何かのグループみたい?ww)のように、
適当に単に音遊びで充てるのも、万葉仮名の文化がその昔あってこそかも。
興味をもって頂いてよかったです^^
by パキちゃん (2008-10-22 23:32) 

パキちゃん

☆風子 さん  ご訪問ありがとうございます^^
ご無沙汰ばかりで申し訳ありません m(_ _)m
なんとか生きてますw
なんだかゴチャゴチャ記してしまったので、ややこしかったかもしれませんネ。
簡単に言えば、オロチは「大蛇」じゃなくて「遠呂智」と書かなきゃヤダ~
って、それだけのことでして;^^
「ヤマタノオロチ チョコたまご」は「かもめの玉子」よりもは小ぶりで甘くないです。
脳ミソ、最近カラカラ鳴ってる気がして、少し考えをまとめる訓練をしないとマズイ;
と思っている私ですw
by パキちゃん (2008-10-22 23:47) 

パキちゃん

☆タックン さん  ご訪問ありがとうございます^^
こんばんは! お久しぶりです^^
相変わらず、知らなくてもいいことについての雑文に、お付き合い頂いて恐縮です;
日本語の一つ一つのことばや漢字について、殊にその成り立ちについて、
子どもの頃から強く惹かれて興味がありました。
いにしえのことですから、大陸も含めての歴史や文化も関係し、
「ことば」には地域性があるので延いては地理も。。。と どんどん・・・
ものごとは、すべてつながっているのだなぁ と、こんなことからも感じさせられます。
バロン、元気です^^ ほんでもって、とっても可愛い!(飼い主バカ 丸出しw)
by パキちゃん (2008-10-23 00:02) 

パキちゃん

☆みほ さん  ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-10-23 07:16) 

畑の帽子

今晩は。
お元気そうなご様子で安心しました。体調はいかがですか?

夫がまさに出雲近辺へ出張中で思わず「買ってきてー」と電話しようかと思いましたよ。 ^^; 
(キングギドラもぬいぐるみにすると可愛いんですけどね…)
by 畑の帽子 (2008-10-23 18:55) 

スー

すごい名前の卵!
でも、面白かったです。
by スー (2008-10-23 20:11) 

パキちゃん

☆畑の帽子 さん  ご訪問ありがとうございます^^
おはようございます^^  お久しぶりです。
体調の方は、薬をのみながらですが、まあまあという感じでして・・・
ご心配ありがとうございます!^^
ご主人様、たとえお仕事でとはいえ、出雲へいらっしゃるとは羨ましい。
その地に足を踏み入れて空気を吸うこと自体、憧れちゃいます^^
おみやげは、もしかしたら「ヤマタノオロチ チョコたまご」かも
キングギドラのぬいぐるみ─ ぬいぐるみ があるのですかw
by パキちゃん (2008-10-24 05:56) 

パキちゃん

☆スー さん  ご訪問ありがとうございます^^
ご無沙汰です;^^ 
このお菓子、ネーミングのアイディアがいいですよネ。
ちょっと長めですが、すぐ覚えられますし。
「キングギドラのたまご」や「モスラのたまご」やら、
怪物の卵シリーズのお菓子を想像しましたが・・・
イマイチ美味しそうに思えないのは、なぜ?w
面白がって頂けたなら、よかったです^^
by パキちゃん (2008-10-24 06:17) 

旅爺さん

ヤマタの大蛇より、やはりヤマタノオロチじゃないとね。
いっそヤマトノオロチがいいかな~?。
爺は玉子じゃなく本物のオロチを食べたことありますよ。
by 旅爺さん (2008-10-24 08:14) 

春分

オロチョンとの関係は?と思ったら、関係あるという説もあるのですね。
私は剣が出てくることもあって、ヤマタノオロチ=たたら説を信じてます。
私はオロチの卵はいらないかなー。高脂血症だし、卵はちょっと。
by 春分 (2008-10-24 20:13) 

パキちゃん

☆真夏 さん  ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-10-24 22:45) 

パキちゃん

☆旅爺さん   ご訪問ありがとうございます^^
いらっしゃいませ^^
本物のオロチ! って  オロチの黒焼き??
それはヘビってことですか? それでもスゴイ! (*・o・*)
鶏肉系の味だと聞いたことはあるのですが・・・
旅爺さんは、いろんな珍しいご経験がたくさんですネ^^
by パキちゃん (2008-10-24 23:40) 

パキちゃん

☆xml_xsl さん  ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-10-24 23:42) 

パキちゃん

☆ホシ さん  ご訪問ありがとうございます^^(お元気ですか?^^)
by パキちゃん (2008-10-24 23:47) 

パキちゃん

☆takemovies さん  ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-10-24 23:57) 

パキちゃん

☆春分 さん  ご訪問ありがとうございます^^
ご無沙汰いたしております m(_ _)m
ヤマタノオロチ=たたら説  そう、私もそう思います^^
オロチョン族の関連にしても、また出雲地方には、「神は海の向こうからいらっしゃった」との言い伝えがあるのをみても、大陸から直接その地方へ伝来した有象無象のものは数知れぬほどだったのでしょうね。
高脂血症、お気をつけ下さいね。
ウチにも1人いまして、豆腐と野菜と魚料理ばかりの食生活に漸く慣れて来たようです^^

by パキちゃん (2008-10-25 00:25) 

パキちゃん

☆パルの大冒険 さん  ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-10-25 13:37) 

パキちゃん

☆プリンちゃん   ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2008-11-12 08:25) 

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