蜜柑 [気ままにessay]
この冬も、隣の実家の門脇に植えられた蜜柑が生りました。
元々鉢植えで観賞用に置いていたものを、地植えにした途端にすくすくと成長し、大き目の実をつけるようになりました。
数年前の暮れの、早朝のことです。
件の門の辺りから、母の
「あっ! 誰がこんなことを!!・・・・」
という叫び声が聞こえて来ました。
「どうしたの??」
と私も我が家から庭伝いに出てみると。。。。
母の足元にミカンの皮がバラバラと散らばっているのが目に入り、嫌な予感のままに目を転じると、案の定ミカンの木には、本来そこにあったはずの、ぽッと暖かい色の小さなお日様のような実たちが、まるで一個も見当たりませんでした。
「まぁ~っ 酷い;・・・」
ようやく甘みが出るまでに育ったので、お正月に皆が集まる際に、「ウチで生ったミカンよ」と話題にして食べようと楽しみにしていた母です。
かなり怒っているのがひしひしと伝わり、気休めにしかならないと分かっていながら、思わず
「鳥が食べちゃったんじゃないの?」
と私が言ったところ
「鳥がこんなふうにミカンの皮を剥いて食べるね!?」
(腹立たしさのあまり、お国言葉の長崎弁が;^^)
とな。
確かに。
皮は、どれもちゃんと中央からキレイに放射状に剥かれて、中袋のカスさえ残っていません。
『こりゃ、どう見ても鳥じゃないわ~』
焼け石に水、火に油、かえってトバッチリで私まで怒られている気になるような剣幕です。
「やっと食べられるかどうか、くらいの美味しさでしかないのにね。 いったい何で人の家の門の中にまで入って来て、こんなことするんだろう。。。」
酔っ払い? 嫌がらせ? 夜中のうちに??、
呆れるやら不思議に思うやらで、ぼーっと、母が黙って箒と塵取りで掃除するのを見ながら、考えていました。
そんなことがありました。
その翌年の暮れからお正月、ミカンは無事に、私たちが口にすることとなりました。
ミカンの皮を剥きながら、
「去年は残念だったよね」
と私が言ったところ、母はちょっと目を細めて、ウフフと照れたような妙な微笑みを浮かべ、軽く頷いていました。
「???」
そして、今年。
年々実の周りが大きさを増し、甘みも一人前になってきたミカンを眺めて思います。
あの年の暮れ、ミカンを食べてしまったのは、酔っ払いでも嫌がらせをしようなんて不逞の輩でもなく、暗く寒い夜にお腹を空かせ、喉の渇きに苦しい思いをしていた人だったのではないか、と。
折りしもあの頃は、海岸の防砂林の中でテント生活をしていた多くの人たちが、一斉に退去させられるということがあった時期と重なっていました。
さして甘くもないミカンなのに、美味しく思われながら食べられたのでしょうか。
『きっと、そうに違いない』
そうして、母も同様に考えたのだろうと、思い当たりました。
彼の食べた人にとり、あのミカンが「蜜柑」であったのなら、本当に私たちにも嬉しいことだったのだと、今は思っています。
ご時勢の出来事ですね。
胸が痛いお話です。
来年はいい年であって欲しいですね。
佳いお年をお迎えください♪
by 風子 (2009-12-27 15:31)
近所の家でも美味しそうな蜜柑がたわわになっています。
ちょっと手を伸ばせばもぎ取ることができそうです。
パキちゃんさん家の蜜柑の味を・・・
彼の人が 今年は暖かい部屋で思い出してくれるといいですね。
by タックン (2009-12-27 19:27)
風子さん ご訪問ありがとうございます^^
その時には思い至らないことってありますよね。
私などは、そのようなことが多くて・・;
ほんと、来年はどなたにも明るい年であってほしいです。
風子さんも、良いお年をお迎えくださいませ^^
by パキちゃん (2009-12-27 22:36)
kanさん、xml_xslさん、畑の帽子さん ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2009-12-27 22:38)
タックンさん ご訪問ありがとうございます^^
思い出してくれているかも。
そして「あれはぁ 酸っぱいミカンだった~」のような笑い話としてだったら、なおいいですねぇw
ウチの家族で一人一個ずつ、初めて食べるはずだった・・・なんて小さいこと。
母は早くにそう思ったようでしたけど、未熟者の私は数年掛かりました;^^
by パキちゃん (2009-12-27 23:59)
しまどっちさん、amaneさん ご訪問ありがとうございます^^
by パキちゃん (2009-12-28 00:07)
ご無沙汰してます。
そんな風に思い到れる想像力を私も持ちたいと思いました。
よいお年をお迎えくださいませ。
by eritaro (2009-12-28 14:14)
最後の言葉で、ぱっと目の前が明るくなって、
すてきな気分になりました。
by スー (2009-12-29 16:07)
eritaroさん ご訪問ありがとうございます^^
ミカンをじーっと見ていたら、あの几帳面に剥かれた皮を思い出し、とても単に軽い気持ちでワルさした人というふうには思えなくなりました。
当時は、綺麗に花を咲かせている植木鉢ごと持ち去られた、なんてこともあったので、ついこちらも貧しい方向で考えてしまったのかも;
新年を、豊かな心であふれる一年にしたいです^^
eritaroさんも、どうぞ良いお年をお迎えくださいm(_ _)m
by パキちゃん (2009-12-31 05:37)
スーさん ご訪問ありがとうございます^^
私も、そのように気づいた後、「きっとおまえも、人のお役に立てたんだね」とミカンに言えるようになって、嬉しくなりました。
(実際に声に出して言ったわけではないですよ;)
ちょっと不快な思い出が温かい思い出となったのも、ミカンが気づかせてくれたおかげです^^
by パキちゃん (2009-12-31 05:51)
今年も大変お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
それではよいお年を!
by 水郷楽人 (2009-12-31 08:52)
水郷楽人さん ご訪問ありがとうございます^^
こちらこそ、お世話になりましたm(_ _)m
新年が、明るい佳いお年となりますように!
by パキちゃん (2009-12-31 10:05)
私も食いっぱぐれた方だったかなと思います。
昨年の暮れにはこちらでもコイン精米機のある小屋で浮浪者が寝ていたと
いう話がありました。自分の家や親類の田でできた米の精米をするような
田畑広がる郊外でもそんな人がいるのだなと驚くばかりでした。
いい国にしないと。隣国に負けないくらい稼ぎ、それでいて優しい心を持たないと。
by 春分 (2009-12-31 10:32)
パキちゃんさん コメントをありがとうございます^^
来年はたくさんの記事 楽しみにしています。
本もどんどんご紹介くださいね。
どうぞよいお年を。。。
by タックン (2009-12-31 16:42)
来年がパキちゃんさんにとってより良い年となりますように。 ^^
by 畑の帽子 (2009-12-31 20:30)
春分さん ご訪問ありがとうございます^^
春分さんもそう思われますか。
本当に今の日本は、いろんな意味で貧しくなりました。
「経済大国=金持ち=豊か」などと、ヘンに勘違いしていた期間が長過ぎたのでしょう。
まっとうに、ささやかな幸せを求める人が、生きやすい世の中になるといいのに・・・
今年からは祈るだけでなく、できることから行動しようと思います。
by パキちゃん (2010-01-02 09:27)
タックンさん、畑の帽子さん、コメントをありがとうございました。
今年はもう少し記事をUPして、顔を出す回数を増やそうと思っています。
また1年間、どうぞよろしくお願いいたします^^
by パキちゃん (2010-01-02 09:39)
明けましておめでとうございます。(^_^)/。。
本年もよろしくお付き合いくださいね。
by 水郷楽人 (2010-01-02 23:04)
水郷楽人さん 明けましておめでとうございます!
(ずいぶんと遅れたご挨拶になってしまい、申し訳ありません;)
こちらこそどうぞよろしくお願いいたします^^
by パキちゃん (2010-01-11 08:04)